【インタビュー】村野幸男さん『難しいことはわかりませんが、50歳でも農業を始められますか?』

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農業を始めるのは、何歳からでも遅くはない!『難しいことはわかりませんが、50歳でも農業を始められますか?』では、50歳前後で農業にキャリアチェンジした先輩たちのインタビュー全文を公開。農業キャリアコンサルタント・深瀬貴範氏が、先輩たちが農業に出会うまでのストーリーや奮闘記に迫ります!


 

【PROFILE】

村野幸男さん
61歳・埼玉県
前職:イベント制作会社

皆さんは、6次産業化という言葉をご存知でしょうか? 今回登場いただく村野さんは、52歳で市民農園を、61歳で本格的な農業を始めただけでなく、「農業の6次産業化」にチャレンジされようとしています。自分らしい生き方、家族といっしょに働くことに目標を据え、1歩ずつ歩み始めているようです。

 

■目次
1:52歳で当選した市民農園
2:市民農園での農業と本格的な農業の違い
3:60歳で始めようとしたきっかけと6次産業化の夢
4:計画通りにはいかなかった農業スタート
5:農業の楽しさと難しさ
まとめ

 

1:52歳で当選した市民農園

 

深瀬 村野さん、よろしくお願いします。非常に興味深い「6次産業化」のお話を伺う前に、村野さんの農業とのかかわりからお聞かせください。

 

村野 義父が定年退職後、畑を借りて野菜づくりをしていた姿をみていました。ただ、当時は仕事が忙しく、時間も不規則でしたので、自分自身が野菜づくりに目を向ける機会があまりありませんでした。でも、そんな自分のなかにも「安心安全な野菜」とか「エコな生活」を信条としているところがありました。そんなベースもあり、2015年から市民農園で野菜づくりを始めました。

 

深瀬 お仕事が忙しいなか大変だったと思います。2015年から今までだと8年ほどやってるわけですが、「市民農園は抽選が厳しい」と聞いてます。その点はどうだったんですか?

 

村野 私が市民農園を借りていたさいたま市では、やはり抽選が大変でした。初年度は抽選に外れてくやしい思いをしたのですが、翌年に運よく当たり、野菜づくりを始められました。

 

深瀬 抽選して野菜づくりを始めたのが52歳だったのですね。では、そこから毎年毎年、抽選をしたのですか?

 

村野 さいたま市は一度市民農園を借りると、翌年からはこちらの希望を聞いてくれるんですね。なので、こちらから「辞退します」と言わない限り続けることが可能なんです。私が借りた場所の金額は年間7000円で、広さは25㎡です。

 

深瀬 そうなんですね、市民農園では、どんな野菜づくりをされていたのですか?

 

村野 私が行っていたのは、有機栽培少量多品目野菜栽培です。20~30品目を栽培してました。失敗することもありましたが、どの野菜もそれなりに栽培でき、自分たちで食べたりご近所におすそ分けしたりしてました。そのときに言われた「おいしいですね」の感想が、農業を生業(なりわい)にしようときっかけかもしれません。今から思えばですが。

 

2:市民農園での農業と本格的な農業の違い

 

深瀬 そして、本格的な農業に今回チャレンジされるわけですね。実際、これから行う本格的な農業と市民農園はどう違うと村野さんは考えますか?

 

村野 全然違いますね。市民農園で行っていた「趣味としての野菜づくり」は、形の良し悪しは関係なくおいしいし、ほんと楽しいんですよ。ただ、「仕事としての農業」となると、いかにお客様に喜んでもらえるかが重要です。有機栽培だからといって虫がついていてもよいわけではありません。安心安全でかつ見た目も大事。また、消費者が求めている野菜を提供できるために、知識や技術を磨くことも必要だと思っています。そういう意味でも、「趣味の野菜づくり」とは大きく違います。

 

深瀬 なるほど。とはいえ、市民農園で野菜づくりをした経験は、この先の「仕事としての農業」に十分フィードバックされていくのですよね。市民農園のときに加え、なにか心がけていることはありますか?

 

村野 市民農園ぼときとほぼ同じ野菜を栽培する予定なので、市民農園での経験は十分活かされます。それに加え、1年間の展開を考えると野菜を絶やさず収穫することが求められます。作付け計画をきちんと立て、リレー栽培ができるようにしたいと思っています。また、暑さや寒さが厳しいときにも臨機応変に対応できるように、知識や技術も身につけたいと思っています。

 

3:60歳で始めようと思ったきっかけと6次産業化の夢

 

深瀬 ちょっと話は戻りますが、市民農園で収穫した野菜をおすそ分けしたことが、農業を仕事にするきっかけになったと先ほどお話しいただきましたが、なぜこの年齢で農業を始めようと思ったのですか?

 

村野 定年を前にして、次のステップは60歳からと決めていました。前職の延長線上で、イベント関係の仕事やコンサルティング業も考えたのですが、「70歳・80歳までできる仕事」ということを考えたとき、「農業」の選択肢が出てきました。ふたりの子供もすでに独立していますし、多少の貯えもあります。この先、妻とふたりで食べていければなと思い、稼ぐというよりは、生きがいややりがいを大事にするライフスタイルを考えました。

 

深瀬 村野さんの目指す「6次産業化」や、この先のビジネスの展開を教えていただけますか?

 

村野 イメージとしては、野菜づくりと共にお店でイベントをやったりするような、地域のお客さんが集まれる「コミュニティーの場」として親しまれるお店を経営することを目指したいと思います。まずは、有機栽培で私が野菜の栽培をします。作った有機野菜を、家の近所にかまえた店舗で販売することを妻といっしょに計画しています。また、地域のシルバー層の方に向けた、手づくりの日替わりお弁当やお惣菜の販売も同時に考えています。

 

深瀬 シルバー層向けのものを提供しようと思ったのはなぜでしょうか?

 

村野 実は義父も高齢のひとり暮らしで。食事はデイサービスの給食やお弁当ということが多いのですが、味がしっかりめのコンビニ弁当やスーパーのお惣菜のように、あまり箸が進まないんですよ。そういう方にも、安心安全で、且つおいしく召し上がっていただける手作りのものを提供したいと思っています。

 

深瀬 まさに前職の経験を活かしてですね。さらにその先のイメージはありますか?

 

村野 お店としては5年やってうまくいけば、フランチャイズ的に展開することもありかなと思っています。農業としては有機栽培をやっているので、循環型農業を実践したいと思っています。例えば、お店で出る食品残渣(ざんさ)は畑に戻したいと思います。将来的にお店は後継者を探して残したいと思いますが、畑仕事は70歳を過ぎても自分たちで続けたいと思います。

 

4:計画通りにはいかなかった「農業スタート」

 

深瀬 ところで、新規就農にあたって農地はどのように借りましたか?

 

村野 5年間、耕作放棄地だったところを借りることになりました。もともと農家だった地主さんが亡くなり、その息子さんが草だけは刈っていたそうです。息子さんとしては、賃料がたくさん入ってくる貸農園にしたかったようですが、相談に行ったところ農業委員会の許可が降りず、断念して貸付意向農地として登録したようです。

 

深瀬 その情報はどこで知ったのですか?

 

村野 以前から市役所へ就農相談に行っていた私のところに、その連絡が入りました。さっそく地主の方と交渉し、農業委員会に許可を取りに行きました。

 

深瀬 情報を得て、いち早く動いたのですね。

 

村野 実はここからが大変でした。なにが大変かというと、思った以上に手続きに時間がかかったのです。流れとしては、


7月に農業委員会3条許可を取って面談

その後、8月に農業委員会の総会で承認される

その後、市役所で承認される

その次に、県で承認される

農地中間管理機構(農地バンク)に登録

 

村野 ここまで5か月もかかりました。役所は1か月ごとにまとめて申請を処理する関係からでしょうか。とはいえ、無事に農地を借りることができたのでよかったですが……。

 

深瀬 ずいぶんと時間がかかったのですね。これから始める方は、必ず管轄の行政にスケジュールも確認したほうがよいですね。さて、農地がみつかり、さぁ農業という感じですが。

 

村野 実はですね、それはそうともいかなかったのですよ。手に入れた農地が5年間耕作放棄地だったため、土壌診断をしたらものすごく酸性土壌だったんですね。これではすぐに作物は植えられないということで堆肥(たいひ)を入れ、石灰をまき、土づくりに時間をかけて行うことになり、イメージ通りのスタートは切れませんでした。

 

深瀬 なかなか、ひと筋縄ではいきませんね。

 

村野 今は、その農地の準備をしながら、一時的に別の農地をお手伝いしている農家から借りて農業を始めています。

 

深瀬 では、この先のスケジュールはどんな感じですか?

 

村野 この先は年明けから、苗づくりと作付けを始めます。そのかたわら畑には水がないので、雨水をためるタンクを設置します。有機野菜とお弁当を販売する店舗は、現在物件を探しています。オープンさせようと考えていた時期はあるのですが、オープンのタイミングも考えなくてはですね。

 

深瀬 忙しそうですが、目標に向かっていく夢があっていいですね。

 

村野 そうですね、楽しいです。また、生活も変わりましたね。会社員の頃に比べると飲みに行く回数も少なくなりましたし、ゴルフの回数も減りました(笑)。

 

5:農業の楽しさと難しさ

 

深瀬 あらためての話になりますが、村野さんからみた農業の楽しさを教えてください。

 

村野 まずは「土と接しながら働ける」ということ。また、「自分の頑張りが収穫という結果でお客様に提供できる」。そして、「お客様の反応がダイレクトに伝わってくる」という点でしょうか。

 

深瀬 難しさはいかがでしょうか。

 

村野 難しさは、思い通りにいかない点自分の技術や知識がまだまだな点です。今でも週に何回か、千葉や埼玉の農家さんに勉強のためお手伝いに行っています。

 

深瀬 最後に、これから農業を始めたい方にアドバイスをお願いします。

 

村野 年齢が高い人は、農業で大儲けしようなど、あまり理想を追いかけるのではなく、ライフスタイルや生きがいをイメージしながら進めたらよいのではないでしょうか。あまり専業にこだわらず、半農半X的な進め方を検討してはいかがでしょうか。

 

 


まとめ

大手イベント会社で猛烈に働いていた村野さん。そのかたわらで始めた「趣味としての野菜づくり」に魅力を感じ、第2のステップとして農業を選ぶまでさほど時間はかかりませんでした。そんな村野さんのポイントは、 

1.市民農園で野菜づくりと栽培に対する考え方をつちかったこと

2.市民農園で行う「趣味としての野菜づくり」と「仕事としての農業」との明確な線引き

3.農地借り入れまでの綿密な情報収集

4.農業をやることを目的とせず、その先の未来を見据えた就農計画

5.「農業✕ビジネス」「農業✕SⅮGs」「農業✕生き方」など、さまざまな形で農業の可能性をイメージ

 

*本コンテンツは『難しいことはわかりませんが、50歳でも農業を始められますか?』(深瀬貴範/小社刊)の付録として掲載しているものです。予告なく終了する場合がございます。こちらについてのお問い合わせは、下記までお願い致します。
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