【インタビュー】長田江美子さん『難しいことはわかりませんが、50歳でも農業を始められますか?』

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農業を始めるのは、何歳からでも遅くはない!『難しいことはわかりませんが、50歳でも農業を始められますか?』では、50歳前後で農業にキャリアチェンジした先輩たちのインタビュー全文を公開。農業キャリアコンサルタント・深瀬貴範氏が、先輩たちが農業に出会うまでのストーリーや奮闘記に迫ります!


 

【PROFILE】

長田江美子さん
56歳
介護講師

今度は女性のファーマーをご紹介いたします。50歳から本格的に農業を始めたという長田さん。現在は「介護講師」の仕事をする一方、35aの畑で約50品目の作物を有機栽培されています。いわば〝介護講師×農業の二刀流〟で農ライフを兵庫県で楽しまれているようです。

 

■目次
1:介護講師との二刀流からみえた農業の価値
2:50歳で農業を始めたきっかけと手にしたもの
3:ご縁でみつけた35aの農地
4:この先目指す農業
まとめ

 

1:介護講師との二刀流からみえた農業の価値

 

深瀬 長田さん、大変ご無沙汰しております。その節は「新・農業人フェア」のセミナーでご講演いただきありがとうございました。農業に興味のある方に向けて、作付けのしかたや野菜の栽培のしかたを教えてくださいましたね。

 

長田 いえいえ。皆さんのためになる話ができたかどうか……。

 

深瀬 皆さん熱心にメモを取りながら聞き入っていましたよ。さて、今回は「50歳からの農業」ということでお話を伺います。女性に年齢を聞くのもなんだかはばかられますが、長田さんは現在おいくつですか?

 

長田 現在56歳です。農業を本格的に始めたのが50歳なので、今年で6年目になります。

 

深瀬 今は「介護講師」と「農業」の二刀流ということですが、どちらがメインの仕事になりますか?

 

長田 どちらかといえば農業がメインですね。介護講師の仕事は、時期によって続いたり、まったくなかったりと不定期な部分があります。農業は作物の様子をみながらできる仕事です。朝早くとか、すきま時間を使いながら自分の裁量で行えます。

 

深瀬 なるほど。介護講師の仕事をご存知でない方もいるかと思いますが、どんなお仕事なのでしょうか?

 

長田 介護講師とは、介護職にこれから入門しようとする方や外国人技能実習生に向けて、基礎的な研修などで教える仕事です。例えば外国人技能実習生の場合だと、入国スケジュールが重なると仕事がかなり増えます。

 

深瀬 繁忙期には忙しくなりそうですね。

 

長田 ただ、ほかの方に代行してもらうこともできるので、農業の繁忙期には農業を優先している感じはありますね。

 

深瀬 農業で独立して6年と先ほどいわれましたが、そもそも農業との接点はどんなものだったのですか?

 

長田 以前から、農業には興味がありました。2005年頃から、近くの農家さんが運営するレンタル農園を借り、趣味で野菜を栽培していました。レンタル農園を続けた期間は就農するまでの12年間です。

 

深瀬 知識や技術はどのように身につけられていましたか?

 

長田 当初、本などを読んで独学で学んでいましたが、50歳で就農する直前に、兵庫楽農生活センターの有機農業研修に約1年半通いました。

 

深瀬 本格的に始める前に、研修にも通われたのですね。そのときも介護講師のお仕事をされていたのでしょうか?

 

長田 その頃は法人組織の管理職で。当時はあたらしい職務につくなど、介護福祉の現場の仕事が忙しい状況でした。仕事と農業研修を並行して続けていましたが、そんな状況だからこそ、植物との触れ合いに価値を感じました。自分が向き合うことによって成長していく植物と触れ合うことで、自分が介在することに価値を感じられるようになったと思います。

 

2:50歳で農業を始めたきっかけと手にしたもの

 

深瀬 忙しい状況のなかで、農業をやることにやりがいを感じ、それが将来的に本格的な農業をすることへの動機づけにつながったわけですね。

 

長田 介護職は対人援助職であり、援助を必要とする方とかかわる仕事です。人との関係を築く仕事を約20年続けてきた一方、「農業で野菜を育てる=食べ物を育てる」という、人間にとって源となるような営みに関心があったんです。その一方、介護の現場では、使った紙オムツや食べ残しの処分をすることが多くあります。介護の現場で起きていることと、「自然のなかで食べ物を育てる」こと。自分のなかでそのギャップが気になっていました。そこから「趣味でいいや」と思っていた農業を職業にしたいと考え、介護講師と農業の二刀流でいくと決めました。

 

深瀬 なぜ50歳で農業を始めようと思ったのですか?

 

長田 介護福祉士の仕事も、20年でようやく仕事の全体像をとらえることができ、基本や本質を初めて理解できたと思いました。そこから農業も、20年くらいは続けたいと考えたんですよ。それもやるなら有機栽培でやりたいと。そのときすでに50歳。自分のコンディションを考えても「ここで決めたほうがよい」と判断しました。年齢的にも、迷っている時間がもったいなかったですね(笑)。

 

深瀬 長田さんが農業をやることで、手に入れたことはありますか?

 

長田 うまく伝えられるかわかりませんが、「本来の農業の楽しみ方」を手に入れた気がします。もともと、「いずれはこういうふうになりたい」「将来はこういう仕事がしたい」というような、強い思いは昔からなくて。道理や自然の摂理のなかで、モノの見方を身につけたり、ぐう然めぐり合った人とのご縁を楽しみに、大切にしてきました。

 

深瀬 あるがままを受け入れるといった感じがしますね。

 

長田 だから、農業も与えられた枠のなかでやることが大事だと思うようになりました。自然はとてつもなく大きなものです。そんな存在を相手にしたとき、人間の手ではどうすることもできないことが多くあります。なので、自然にあらがうのでなく、自然の力を借りて、自然とうまく共存していくことが農業の楽しさだと。よく、「台風などの自然災害で農作物が……」というニュースを耳にすることもありますが、逆にそれが農業だと思います。農業を通して自然のなかで活かされている自分に気づいたんです。就農して6年経った今も、「うまくいったらラッキー」という気持ちがどこかにあります。

 

深瀬 自然との共存について考えさせられますね。介護の仕事をされている、長田さんならではの農業観という感じがしました。

 

3:ご縁でみつけた35aの農地

 

深瀬 現在農業をされている35aの農地は、どうやってみつけましたか?

 

長田 農地ですが、実は私はあまり、というか全然苦労してなくて。趣味の野菜づくりを続けながら、兵庫楽農生活センターの有機農業研修を1年半受講していました。そのときの研修仲間が、地主さんから15aの畑を借りることになっていたのですが、話がまとまらずキャンセルしたんですね。それが私に回ってくることになりました、そのあと、「追加で20a借りますか?」というお話があり、結果的に合計35aの農地を借りることになったんです。

 

深瀬 そういうことがあるのですね。

 

長田 ほんと、人との縁は大切です。

 

深瀬 そのあとの手続きも無事に済んだのでしょうか?

 

長田 当然、農業委員会に行って営農計画を提出し、面接も受けましたよ。手続きは大変かとかまえていましたが、思ったよりは穏やかに終わりましたね(笑)。

 

深瀬 比較的、農地の取得や情報収集がうまくいったのですね。そうなったのも、レンタル農園で12年間続けたことや、行政機関主催の就農研修に通ったことがポイントですかね。

 

長田 そうかなと思います。栽培の経験があったこと、有機農業研修で得た情報や研修仲間・新規就農者から得た情報など、人とのつながりから情報を集めたことも大きかったと思います。本やインターネットからなども調べましたし、情報不足ということはありませんでした。それも関係して、農業委員会とのやり取りもスムーズだったと思います。

 

4:この先目指す農業

 

深瀬 農業を続け、この先目指すものはありますか?

 

長田 せっかく有機農業をやっているので、子供や若い人をはじめ、有機農業のよさを世間に広く伝えていきたいですね。例えば、オーガニック志向のスーパーさんで野菜を販売することで、消費者に向けて有機農業をアピールできます。また、これから野菜作りを始めたい人たちと、有機農業の勉強会をしたいと考えています。

 

深瀬 勉強会ですか。具体的にはどのような活動をされているのでしょうか?

 

長田 最近、神戸市に神戸ネクストファーマー制度というあたらしい制度が作られました。今まで農業を始めるには1200時間以上の農業研修が必要だったんですが、この制度では、短時間の農業研修(合計100時間程度)を受けることによって、100~1000㎡未満の小規模な農地を借りることができる制度です。100時間といえば、働きながらでも可能です。今はそこに集まるネクストファーマー志望の人たちに向けて、有機農業を教えることで有機農家を増やす活動をチームで始めています。

 

深瀬 楽しみですね。長田さんはこの先、何歳まで農業を続けたいと思いますか?

 

長田 70歳くらいまで今のスタイルで行い、70歳過ぎたら趣味でよいかなと思ってます。

 

深瀬 続け方が選べるのも農業ですね。あらためて、農業の楽しさとはなんでしょう。

 

長田 楽しさは「土から食べ物を育てるという営みを職業としていることに、心の充実と安定を感じること」。また、「自分の仕事の価値をはっきりと説明できること」。そんな点でしょうか。 

 

深瀬 逆にむずかしさとは。

 

長田 むずかしさは「自然が相手なので経営が安定しないこと」。でも、介護講師との二刀流なので、損益のバランスはかろうじてとれています。

 

深瀬 最後に、これから50代で農業を始める人にアドバイスをお願いします。

 

長田 年齢とともに、周囲では悲しい旅立ちを見聞きすることもあります。人生いつ終わるかわかりませんよね。なのでもし、農業に興味があれば、まず動いてみてください。今はオンライン講座も多くあります。研修機関が行う農業スクールや講演会に行ってみることで、思わぬ人との縁が生まれたり、さらにタイミングが重なって思わぬ展開につながったりするなんてこともあります。いろいろと迷いもあると思いますが、「迷っている時間がもったいない!」と思います(笑)。

 

 

 


まとめ

介護講師と農業の二刀流の長田さん。介護職ならではの農業観や、農業を通して手に入れた人とのつながり、これから有機農業を広めていきたい思いなど、すてきなお話を聞くことができました。そんな長田さんのポイントは、

1.自分のライフスタイルに合わせた形で楽しんで農業を行っている

2.農業研修に参加することでネットワークを広げた

3.農業をすることがゴールでなく「有機農業を広める」という夢の実現を目標にしている

4.自分の年齢を考えた、早い決断と早い行動が現在の農業につながった

5.農業を始めてからも、仲間と共に勉強し、行政機関の勉強会に参加することで技術を高めている

 

*本コンテンツは『難しいことはわかりませんが、50歳でも農業を始められますか?』(深瀬貴範/小社刊)の付録として掲載しているものです。予告なく終了する場合がございます。こちらについてのお問い合わせは、下記までお願い致します。
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