【インタビュー】上山大輔さん『難しいことはわかりませんが、50歳でも農業を始められますか?』

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農業を始めるのは、何歳からでも遅くはない!『難しいことはわかりませんが、50歳でも農業を始められますか?』では、50歳前後で農業を始めた先輩のインタビュー全文を公開。農業キャリアコンサルタント・深瀬貴範氏が、先輩たちが農業に出会ったストーリーや奮闘記に迫ります!


 

【PROFILE】

上山大輔さん
46歳
株式会社夏樹 代表

現在、介護業界で福祉用具のレンタルや販売、在宅介護の支援を行う株式会社夏樹の代表上山大輔さん。会社を経営しながら46歳で農業を始め、農業を通じて「農福連携」を目標に動き出しました。そんな上山さんのチャレンジを紹介します。

■目次

1:経営をしながら農業を始めようと思ったきっかけ
2:農地も住居も機械も「行動あるのみ」
3:目指すは「デイサービスで農業」と地域活性化
まとめ

 

1:経営をしながら農業を始めようと思ったきっかけ

 

深瀬 農業の話に入る前に、現在の上山さんのお仕事をご説明いただけますか?

 

上山 現在は、埼玉県上尾市で福祉用具のレンタル・販売、住宅改修、居宅介護支援などを行う介護サービスの会社を経営しています。前職も介護関係の仕事をしていましたが、「かかわる人すべてを幸せにしたい」という思いから2017年に会社を立ち上げました。

 

深瀬 現在、会社の代表をされているということですが、代表が農業に進むとなると会社経営のほうは大丈夫なんですか?

 

上山 会社の経営も軌道に乗り、部下にまかせられる状態まできているので、これを機にかねてから興味のあった農業に進もうと思いました。

 

深瀬 上山さんと農業の接点はどういうところにありましたか?

 

上山 もともと青森県にいる知り合いが、自然農法で農業をやっていたことです。定期的に送っていただく野菜がとてもおいしくて、農業ってすごいなと思ってました。ただ、自分には縁遠いことだとも思っていたので、小さな家庭菜園をやる程度に収まっていました。

 

深瀬 そうなんですね。では、なぜこの年齢で農業を始めようと思いましたか?

 

上山 高齢者の方とかかわることが仕事柄多いのですが、残念なことに病気の方が多いのです。それはなぜかなと考えたとき、食べものが原因ではないかと思い始めました。「ならば自分で安心安全な野菜を作ってみたい」と思ったのが農業を始めようとしたきっかけです。

 

上山 ただ、農業に興味はあっても知識がなかったのでどうしようかと悩んでいたところ、農業を教えてくれる「アグリイノベーション大学校」という学校があることを知りました。週末に授業が受講できたり、オンラインでも授業を受けられたりと、今の仕事に支障なく学べそうだったのでさっそく受講しました。

 

深瀬 農業の知識があまりなかったということですが、アグリイノベーション大学ではどんなことをおもに学びましたか?

 

上山 栽培技術の原理原則はもとより、土壌や肥料についての知識を学んだり、畑での実習を行ったりしました。それ以上に参考になったのが、農業経営や農業マーケティングです。基本的な技術だけでなく、ビジネスとしての考え方や知識も学ぶことができたのでたいへん参考になりました。

 

2:農地も住居も機械も「行動あるのみ」

 

深瀬 独立して農業を始める方にとって、「知識・技術」「農地」「資金」は三大お悩みごとなんですが、上山さんはその点はどうでしょう?

 

上山 それがですね、苦労されている皆さんにはほんとうに申し訳ないのですが、とんとん拍子に物事が進みました。農地探しは長期戦でかまえてたんですよ。それがインターネットで農地を探していたら、「農家の後継者募集」と出てたんです。調べてみると「農地つきの農家さんの家を貸してくれる」という内容でした。すぐに連絡を取り話を伺うと、代々続いていた農家さんのひ孫にあたる方が、空いている農地を有効に活用してくれる人に農業をやってほしいと広告を出されたそうです。本当にまれなケースで農業委員会の方も驚いてました。

 

深瀬 ほんとうですね。私も聞いたことがないですし、これからもそんなうまい話が出てくるかどうか……。で、そのあとはどのような手続きを踏んで農地を取得したのですか?

 

上山 農地自体は農業委員会にも貸付意向の土地として登録されてましたので、

7月に農業委員会に相談

8月に農業委員会で面談審査

9月下旬に承認

といった感じで進みました。

 

深瀬 地域によって進め方はさまざまですね。本来、もう少し時間がかかると聞いてます。それにしても、ほんとにとんとん拍子です。

 

上山 確かにとんとん拍子に進んで怖かったです(笑)。

 

深瀬 借りることができた農地や家屋はどんな感じでしたか?

 

上山 土地は2反(1反は1,000㎡で50mプールくらいの大きさです。なので2反は50mプール2個分となります)と家屋が全部で500~600坪あります。ちなみに家の家賃は月10万円です。家屋以外に作業小屋もあったのもラッキーでした。ただ、まわりは水田しかないので、今後畑を広げようと思ったときに困るのでないかと今から心配しています。

 

深瀬 とはいっても、いきなり2反の畑をおひとりで耕すのもかなり大変なんじゃないですか? 「深瀬なんちゃって農園」は3a(300㎡)でアップアップですよ(苦笑)。

 

深瀬 ところで、農地を借りる際には農業委員会から承認される必要な3条許可には「農業技術」をみられる項目があります。上山さんの場合、農業経験や農業研修の経験もなく、アグリイノベーション大学校での受講のみとなってますが、審査のほうは大丈夫でしたか?

 

上山 実は自分もその部分は心配していました。しかし、技術というよりやる気を優先している自治体のようで問題ありませんでした。しかし、技術は未熟ではあるので、営農指導や情報提供をしてもらえる農林振興センターには行こうと思っています。

 

深瀬 こちらもとんとん拍子で、上山さん、かなりの強運の持ち主ですね(笑)。これで、農地も住居もそろいました。それ以外でいうと、農業機械もすでに手に入れられたのでしょうか?

 

上山 実はトラクターも購入しました。

 

深瀬 けっこう高かったのではないですか?

 

上山 新車で購入し、280万円ほどでした。

 

深瀬 すべてにおいて行動が早いですね。

 

3:目指すは「デイサービスで農業」と地域活性化

 

深瀬 あとは始める時期を待つだけですが、上山さんはどんな農業をやってみようと思ってますか?

 

上山 まずは、比較的始めやすいとされるジャガイモやエダマメ、葉物類から始めようと思ってます。ゆくゆくはハウスも建てて、施設野菜も作ろうと思ってます。

 

深瀬 農福連携が目標とのことですが、この先はどんな展開をイメージされてますか?

 

上山 2年後くらいには、農業をテーマとしたディサービスを考えています。農作業が高齢の方にとって自立支援・機能回復になると思ってます。自分のなかでは初めての試みではありますが、これを成功させ、農福連携のしくみを作り上げたいと思っています。

 

深瀬 「デイサービスで農業」というところをもう少しお話しいただけますか。

 

上山 実は、大阪に既に実施しているところがあって、先日見学してきました。今までのディサービスは、どちらかというとイヤイヤ来ている方が多かったのですが、見学に行った先では皆さんイキイキとされていて、率先して外に出て土をいじるんですよ。私の知っている高齢者の方も、以前は家庭菜園をやっていた方が多くいます。身体を壊したり、足が不自由になったりして自分の畑に行けなったことで、より身体が衰えた方もいます。なので、そういう方に「楽しむ場」として農業を提供することで、イキイキと毎日を過ごしてもらいたいと思ってます。

 

上山 また、この農業を「楽しむ場」として提供する場を、高齢者の方だけでなく、農業に興味のある方が体験できる拠点としても機能できたらと思ってます。畑も南栗橋駅の近くにありまして、とても来やすいロケーションなんです。地域もよそから人が集まることで活性化します。畑の利用者にとってもよいし、地域にとってもよい。「win-  win(ウィンウィン)」の関係ですね。

 

深瀬 この先が非常に楽しみですね。なにかお話を伺っていると、イキイキと農業に取り組む高齢者の姿が目に浮かびます。

 

深瀬 では、これから50代で農業を始める方に向けて、最後にアドバイスをお願いします。

 

上山 うまくいくかはこれからの努力次第なのでえらそうなこともいえませんが、これだけはいえるのは「行動あるのみ」だと思います。よく農地がみつからない、農地が手に入らないという方がいますが、私からみるとそういう人は動いてないですね。動いていたとしても活動量が足りてないように思います。農業を始めるためには、情報を積極的に収集したり、農家さんのお話を聞きに行ったり、自分からどんどん動くことが大事だと思います。私みたいに空いている時間を使って学校に入る、というのもひとつの手かなと思います。とにかく、行動あるのみです(笑)。

 

 

 


まとめ

就農までとんとん拍子に来た印象の上山さんですが、ここに至るまでは綿密にいろいろと計画されていました。だからこそ、農地の話がタイミングよくきたときもすぐに動くことができたし、チャンスをものにすることができたのだと思います。そんな上山さんのポイントは、

1.自身の最終的なゴールをイメージしてから準備に入った

2.みずから積極的に行動することでさまざまな可能性にめぐり合えた

3.みずからの目標としている事業と農業によって社会貢献を実現

4.行政機関とうまく連携することで農地の取得もスムーズに

5.技術の習得→農地の取得という順序にこだわらず、手に入れられるものから入れていった臨機応変さ

 

*本コンテンツは『難しいことはわかりませんが、50歳でも農業を始められますか?』(深瀬貴範/小社刊)の付録として掲載しているものです。予告なく終了する場合がございます。こちらについてのお問い合わせは、下記までお願い致します。
株式会社淡交社 出版事業局 東京編集部 03(5269)1691